かつて女の子だった人たちへ
「最後まで……してもいいですよ」

そう言った芽里の声は小声で、震えていた。ほんの今さっきまでレイキと楽しい時間を過ごしていた。その自分が、今これから何をしようとしているのか、現実感がない。

「え? ホント?」

男が嬉しそうな顔になる。下品な笑顔だ。

「2……、2万円。出せますか?」
「いいよ。お姉さんみたいな可愛い子なら出す出す」
「避妊はしてください」
「当たり前だよ。マナーだからね」

何がマナーだ。路上で女を買っておいて。そう思いながら、女を売り物にしようとしているのは芽里だ。
しかし、芽里の頭には2万円のことしか思い浮かばない。

(2万円あれば、少なくとも次のライブに行ける)

レイキのためだ。レイキのためならなんでもできる。

「交渉成立でいいかな。ホテルは一番安いところにさせてくれよ」
「いいですよ」

芽里はひきつった顔のまま、男の後に続いた。


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