かつて女の子だった人たちへ
嫌な時間は目をつぶってやり過ごした。
男は加齢臭ともタバコともつかない匂いがして、密着されると息ができないほどだった。あちこちしつこく舐めまわされたのも不快だった。
揺さぶられている間は、無の心地でいた。今、レイキのことを考えたら、レイキに申し訳ない気がしたからだ。レイキは芽里が、自分と会った直後にこんなことをしているなんて知らない。

それでも二時間ほどの時間を終えると、芽里の手には2万円があった。男は気持ち悪かったが、芽里にひどいプレイは強要しなかったし、しきりに芽里を可愛い可愛いと褒めてくれた。
地味で取柄もなく、恋愛経験も豊富でない芽里にとって、男性にちやほやされるのは貴重な経験だった。そして2万円である。
男は楽しかったと嬉しそうに帰って行った。

「こんなことでもらえちゃうの?」

芽里はホテル前で2万円を見つめ、つぶやいた。
なんて簡単なんだろう。ほんの二時間我慢すれば稼げるなんて。
駅に向かいながら考える。例えば、週に三回我慢すれば6万円。生理の週を抜かして三週間稼げば、月に18万円のプラスだ。芽里の正社員の給与を超える。

「やった」

芽里は小さくつぶやいた。目の前が開けていくような感覚だ。

「これで、レイキに会いに行ける。レイキをもっと応援できる」



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