かつて女の子だった人たちへ
「いえ、すいません! もう帰りますから!」
「ひと月も稼いでおいでそれは駄目でしょ。まあまあ、変なことはしないよ」

両脇をがっちり挟まれ、ほぼ連行の状態で芽里は男たちに拉致された。幸いだったのは、男たちは確かに反社会組織の人間ではあったのだが、芽里に注意勧告だけをして解放してくれたことだった。二度と彼らに無断で売春をしないという誓約書を書かされはした。

「お姉さん、昼職の人間でしょう。これに懲りて、元の場所に戻んなよ」

事務所という名の不動産会社の二階から解放されるとき、男のひとりが言った。

「ご迷惑をおかけしました。もうやりません」

芽里は頭を下げて、駅前に走った。途中でタクシーを捕まえ、逃げるように池袋を後にする。
車内でもずっと手は震えていたし、泣きそうだった。

恐ろしかった。経験したことのない恐怖だった。もう二度と路上売春などするまい。
そう思いつつ、芽里の唇からは言葉が漏れていた。

「お金、どうしよう……」

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