かつて女の子だった人たちへ
第5話
「お疲れ様です」
飯田橋にある会社を退勤すると、家のある方向とは違う電車に乗る。乗り継いでたどり着いた駅。芽里は無表情で歩き、ひとつの建物に裏口入っていく。表の電飾のついた看板には『ファッションヘルス・ラブグレープ』の文字。
衣装である胸元が大きく開いたニットとミニスカートを着用すると、店舗の責任者が声をかけてきた。
「りるるちゃん、今日も頑張ってね」
「はい……」
この源氏名は店舗責任者がつけた。我ながら不似合いな名前だとは思うが、本名を名乗るわけにもいかない。
「りるるちゃんは若いし、接客丁寧だから、すぐに指名がつくようになるよ」
「ありがとうございます。頑張ります」
池袋の一件から半月。芽里はファッションヘルスで働いていた。怖い目に遭い、もう路上には立ちたくない。しかし、性産業が儲かることも嫌というほどわかってしまった。
(今の正社員を続けながら、まとまった副収入を得るならこの道しかない)
キャバクラは顔や話術が重要だが、風俗は技術で勝負できるのではなかろうか。恋愛経験が少なく、性には自信がなかった芽里だが、ここひと月男たちを悦ばせてきた経験が背中を押した。
(デリヘルは相手の家やホテルに行くからちょっと不安だけど、ここはこの店舗にお客さんが来るし、変な人だったらすぐにスタッフを呼べるから安心。本番までしなくていいのもラク)
週三回、19時から23時半まで、客に性的な奉仕をする。
ライブの予定とはずらしてシフトを組んでいるため、現場には行けるしレイキにも会える。