かつて女の子だった人たちへ
令美は弓の白い手をぎゅっと握る。アルコールで少しふわふわしている様子の弓は、令美のネイルを見て微笑んだ。

「わあ、令美の爪、すごく可愛いね。パールもカラーもセンスいい。私、こういう雰囲気、大好きよ」

気に入らなかったネイルを心の底から可愛いと思っている弓。彼女の爪はカラーはおろか、ただ切りそろえられただけの甘皮の残るものだった。

(ブスで意識低くて、いつまで経っても変わらない弓)

令美はいつもどおりの笑顔になった。

「ありがとう」

女は容姿と愛嬌がすべて。分不相応にも、いい男をものにしようと張り切っている弓が滑稽で馬鹿みたいで、そしてものすごくムカついた。

(あんたと彼がお似合いのわけないじゃん)

「あれ、仲良くしてる~」

敬士が戻ってきて、手を繋ぎ合うふたりを見た。令美はふふと意味深に笑う。
入れ替わりに弓がトイレに立ったタイミングで令美は切り出した。

「松田さん、弓は大事な幼馴染なんです。あの子をよろしくお願いします。もしよければ、今度弓についてもっと詳しくプレゼンしたいんです」

真剣な顔で言うと、敬士は興味を持ったような顔をした。
令美にはわかった。敬士が興味を持ったのは、『弓についてのプレゼン』ではなく、それを令美が直接敬士にしたいと思っていることについてだ。

「メッセージアプリのID、交換しませんか?」

敬士がにこっと微笑んだ。それは爽やかで朗らかな好青年の笑顔だったけれど、かすかに期待の色が瞳に見える。
最初からこの男が弓を見るはずはないと思っていたけれど、この様子だと脈はおおいにありそうだ。

「もちろん、いいよ。今日はいいご縁だったと思ってるしね」
「嬉しい」

ふたりはスマホを取り出した。弓はまだ帰ってこない。

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