かつて女の子だった人たちへ
「去年の今頃はキラたちも大変で、危機感もあったみたい。でも、一年でここまで成長してる。『ミルkey』だってきっともっと伸びるよ」
「そうだよね。CDだって出るし」
「積まなきゃね(※たくさん買うの意)。メリー、最近は副業を頑張って推し活費用捻出してるんでしょ。無理してない?」

心配そうに尋ねてくるトモカに、風俗で働いているとは言えない。芽里は曖昧に笑って答えた。

「現場ない日にちょっとね。知り合いのところだから、バイト代多めにもらえるの」
「そっか~。メリーは頑張るね。やっぱレイキのリアコは違うわ」
「リアコ……じゃないよ! 私は」

慌てて訂正すると、トモカは片側だけ口の端をあげ、おとなっぽい笑顔を見せる。

「いいじゃん。この界隈なんてリアコばっかなんだから。私もキラに夢中だった時期があったよ。あれはリアコだったって思う。今は落ち着いて普通のファンでいるけど」
「それは……その恋みたいな気持ちは、いつか落ち着くものなの?」
「どうだろ。私の場合は仕事が忙しくて現場に行けない時期があったんだよね。それも冷却期間になったかも。ほら、現場の熱に当てられちゃうところってあるじゃない。オタクと演者の濃密な世界っていうかさ」

芽里はトモカを見つめ、数瞬黙る。

(現場を離れればこの気持ちは落ち着くの? 消えてなくなる?)

そこまで考え、ハッとした。慌てて芽里は言う。

「私は本当にリアコじゃないの。そもそも、レイキを弟みたいに思ってるから。なんていうか放っておけないっていうのかな? だから大事だし、推したいってだけで。それが私の癒しになるっていうか」
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