かつて女の子だった人たちへ
約束の日曜、芽里は上野でレイキと待ち合わせた。コンカフェやライブハウスから離れていた方がいいかと思ったのだ。

「レイキ、それ着てくれてるの?」
「うん」

レイキの身に着けているシャツもキャップもブレスレットも芽里が贈ったものだ。

(靴は違うけど……)

足元はコンカフェ卒業時に贈ったスニーカーではないが、今日の服装ならトラッドな革靴の方が似合うからいいだろう。

「メリーさんがくれたものだから、嬉しくて」
「今日は別のブレスレットをプレゼントさせて。いつも同じだと、本当に彼女からのプレゼントみたいに思われちゃうでしょ」
「えー? 俺は全然困らないけどなぁ」

レイキに誘われて着たのは地下の洋食屋だ。レトロな雰囲気だが、そこが人気なのか客席は昼前に満席だ。

「オムライスが美味しいんだよ。前、メンバーと来たんだ」
「じゃあ、オムライスにしようかな」

レイキとふたりきりで出かけている。前回の悩み相談も嬉しかったけれど、会いたいから会うというのは、すごいことだ。

(私でいいのかな)

レイキはアイドルなのだ。親しみやすい顔立ちだけど、『ミルkey』で歌って踊っているときは格好いい。一生懸命アイドルをしているところが胸を打つ、素敵な男子なのだ。

(待って。私はそんなつもりないし)

恋愛じゃない。
この気持ちは恋愛感情じゃない。
芽里は自分に言い聞かせる。推しを推すというピュアな喜びを味わっているだけ。
そこまで考えてぞくりと背筋が冷たくなった。
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