かつて女の子だった人たちへ
(レイキは……私が好きなの?)

推しは恋愛対象じゃない。
唱えていた呪文が、好きという言葉の衝撃で壊れていく。

(ああ、もっと早く気づけばよかった。レイキはずっと私に好意を示してくれていたじゃない)

不器用だけど、まっすぐに気持ちを伝えてくれていた。それをリップサービスだと思い、流してきたのは芽里だ。

「コンカフェ時代からずっとメリーさんが好きだよ。だけど、メリーさんは弟みたいにしか俺のことを見てないんだろうなって。だけど、こんなに俺のことを思ってくれて……俺っ、もう気持ちを我慢できないよ」

(私のこの気持ちは、恋だ)

レイキの夢を応援したいだけじゃない。レイキを愛してる。レイキに愛されたい。

「レイキ……、私も」
「メリーさん!」
「彼女にしてほし……」

涙声は、レイキに抱きしめられ途中で途切れた。

「レイキ、レイキ……大好き」
「俺も」

夢中で唇を貪り合う。仕事でキスは散々する。好きでもない男の身体に舌を這わせることだってある。

(好きな人とのキスって、気持ちいい)

レイキとのキスは全然違う。すべてが気持ちよくて、唇からとろけて身体が自然と疼く。
これが本物のキスだ。男たちにしてきた仕事じゃない。あんな記憶たちを一瞬で上書きしてくれる好きな男からのキス。

(幸せ……)

レイキが体重をかけ、ソファーに押し倒してくる。

「レイキ……ここ」
「大丈夫。一番端の部屋だから、誰も通らないよ。こっち側は暗いからのぞき窓からも見えづらいし」
「……うん」

細かいことを考える余裕はなかった。見上げた目の前には推しがいる。今までで一番近い距離で、恋人として。
芽里はレイキに抱かれた。夢のような時間だった。


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