かつて女の子だった人たちへ
第6話
「レイキ、私、仕事行くね」
朝、芽里はベッドに向かって声をかける。布団がもぞもぞと動いて、レイキが頭だけ出した。
「いってらっしゃい。気を付けてね」
「鍵閉めて出かけてね。現場は行くから」
「ん、待ってる」
レイキは寝ぼけた声で答える。芽里はもう一度ベッドに歩み寄った。
「メリー」
レイキが腕を伸ばしてくるので、腰をかがめてキスをした。
「仕事、頑張ってね、メリー」
「レイキも、レッスンとライブ頑張って」
名残惜しい気持ちを押し殺し、芽里はアパートを出る。
季節は10月。『ミルkey』がデビューして五ヶ月が経っていた。芽里とレイキが交際を初めて1ヶ月である。
給料があまりもらえず生活が苦しいレイキを家に招いたのは芽里だ。なんでも、9月の頭からレイキのアパートは電気もガスも止められてしまっているらしい。
電気代やガス代の立て替えも提案したが、レイキに固辞されてしまった。仕事を安定させて、自分で払うとのことだ。そこまで恋人に甘えられない、と。
レイキが今、週の半分ほどを芽里の部屋で過ごすのは、好きな人といたいからだそうだ。両想いになって1ヶ月。蜜月のときだ。芽里だってそばにいたい。