かつて女の子だった人たちへ
ファッションヘルスのバイトは週三回こなしている。ライブ活動をしない日は、レイキも単発バイトを入れることが多く、それは深夜の倉庫作業などがほとんどである。芽里が終電で帰ってきても、翌朝帰ってくるレイキは気づかないだろう。
現場には変わらず通っている。恋人になったからといってレイキを推さないわけじゃない。アイドルとして成功してほしい気持ちは変わっていない。

「メリー!」
「トモカちゃん」

今日も参戦服にキンブレを手に現場に赴く。

「CDのトレカ、全部そろった?」
「うん、ミヤナさんの友達にジュリンとユウヤと交換してもらった」

もうここでの作法も慣れたもので、芽里は熱心なファンのひとりとして、運営スタッフや他のメンバーにも認知されているだろう。
今日もレイキは格好いい。最高だ。芽里は最前列でレイキの雄姿を見守る。個レスに気づいている客もいるだろうが、そんなものは他のメンバーだってやっているのだ。芽里は気にしない。
特典会では先に並ぶレイキのファンたちをほほえましい気持ちで見守る余裕もある。

(みんな、レイキのこと、推してあげてね)

レイキが誰からプレゼントをもらっても、誰とどんなチェキを撮っても、彼の恋人は芽里だ。
本妻の余裕といったところか。無邪気なレイキのファンたちを前にそう思う。
自分もしっかりレイキとチェキを撮るが、繋がっているとスタッフにバレないように、距離感には注意した。ファンと付き合うのを許さない事務所だってある。

帰り道、トモカとふたり駅まで歩いているときのことだ。トモカが芽里の顔を覗き込んで、にやーっと笑う。

「メリー、最近綺麗になったよ」
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