かつて女の子だった人たちへ
第2話
令美が物心ついた頃には、両親の仲は冷え切っていた。
なんでも祖父は父親の勤務先の重役で、娘を父と結婚させたがったそうだ。しかし結婚してすぐに祖父は社内の権力闘争に負け、会社を追われてしまった。令美の父親は祖父の派閥に入ったがために三十代にして閑職に追いやられ、いつ日の目が見られるかわからなくなった。そういった事情もあり、父は母にきつくあたっていたようだが、幼い令美にはわからないことだった。
父が母にたいしてブス、愛想がない、陰気臭いなどと暴言を吐くのはよくあった。そして父は令美に言った。『おまえは俺似だ。お母さんに似ないで本当によかったな』
それは、母が令美の容姿を可愛い可愛いと褒めてくれるのとは違う。ざらざらとした嫌な感触がいつまでも心に残る言葉だ。しかし、父と顔を合わせるのは休日くらいだったので、令美が心のざらつきについて考える機会はそうなかった。
弓の家族はいつ見ても仲がよさそうに見えた。
不細工な両親が不細工なひとり娘を可愛がっているのは、檻の中の動物の家族を見るような心地だ。羨ましいわけではなかった。ただ、そういった幸せそうな姿が、弓には不相応だと思った。