かつて女の子だった人たちへ
熱意が通じたからアイドルになれたんじゃなく、レイキは枕営業をして、メンバーの座を手に入れたというのだろうか。

「レイキが女と遊んでたなんて、何かの間違い……」

それでも芽里の口から洩れたのは信じたくないという希望の言葉だった。

「今もメリーに隠れてやってるよ。メリーは数少ないレイキに飽きないオタクだったから、細客でも構ってもらえてたんだよ。最近風落ち(※風俗業に従事する)して、もっとお金を引き出せるってレイキも気づいてる。だから、私から離れてメリーのところに転がり込んだんだよ」

そんなの嘘だと芽里は叫びたかった。違う。レイキはそんな男じゃない。
同時に芽里の頭には、昼間のレイキの姿が映っていた。
『困るよ!』と怒鳴ったレイキ。
彼の言葉はすべて、落とし込みをされた芽里への気遣いではなく、保身の言葉だった。

(レイキは、私の最高の推しで、理想の恋人だったはずなのに……)

芽里はしばし黙った。それからすうっと息を吸い込み、目を開いた。トモカをじっと見据える。

「それでもトモカちゃんのところからうちに来たんだから、レイキが選んだのは私だよね」

トモカが頬をぴくっと震わせる。芽里の様子が変わったと気づいたようだ。

「レイキがつらいとき放置してたから、愛想をつかされたんじゃない? 潔く他界して(※界隈から卒業)今後は彼女ヅラしないで。最初から落とし込みしたくて私に近づいたんだろうけど、レイキはもう私の彼氏だから何しても無駄。今までのことは許してあげるよ」

芽里が暗い笑顔で微笑んだのをトモカは憎々しげに見つめていたが、それ以上は何も言わなかった。
芽里は立ち上がり、ほとんど飲まなかったカフェオレのマグを下げ台に置き、カフェを後にした。

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