かつて女の子だった人たちへ
翌日も仕事を休んだ。おそらく、芽里の件は社内の噂になる。
退屈な職場だ。ゴシップが流れるのは速い。以前も職場内不倫があって会社中の噂になった。当事者ふたりはあっという間に辞めてしまったのを覚えている。

(私も辞めるからいいか)

会社に連絡をしてから、芽里は昼過ぎまで眠った。精神的な疲労から、食欲はないのに身体が眠りを求めていた。逃避かもしれない。
レイキは帰ってこない。ただ、メッセージアプリに今夜来てほしいと念押しのメッセージが入っていた。

(話、全然通じなかったな)

サボりや女絡みの悪行がバレて、クビを宣告されパニックを起こしていたのだろう。話し合う余地もなかった。裏切ったのはレイキなのに、芽里の感情や気持ちには一切配慮せずひたすら今まで以上に推してほしいと求める。運営やメンバーへのパフォーマンスとして。

(今日の現場が終わって、帰ってきたら頭が冷えてるかな)

芽里は起き上がった。現場に行かなければならない。
のろのろとシャワーを浴びる。髪を整え、時間をかけてメイクをした。レイキのTOに相応しいように、芽里を叩きたい連中に負けないように。
一番気に入っている参戦服のワンピースに袖を通し、コルセット状になっているウエストの紐をきゅっと結んだ。

(言うことを聞いてあげるのは今日だけ。ここから先は、私の話を聞いてもらおう)

前髪をもう一度調整して、ふっと息をつく。

(レイキにとって一番の幸せは私との未来。それをわかってもらわないと)

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