かつて女の子だった人たちへ
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明け方のホテル、まだ薄暗い中キスを交わす。
令美は唇を離し、蠱惑的に敬士を見つめた。もう何度こうして肌を合わせただろう。
「そろそろ帰らなきゃ」
「えー? まだ早いよ。いいだろ?」
敬士が甘えた声をあげ、腕を巻き付けてくる。令美は敬士の頬にキスをしてやんわりと腕を外した。
「うち、遠いんだもん。一度帰って着替えて来なきゃ」
同じ服で出社するわけにもいかない。平日のデートは最近いつもこうだ。食事をしてホテルでセックスをして、明け方に別れる。
「それとも敬士の部屋に、私の荷物置いてもいいの?」
「俺の部屋、すっげー狭いし古いんだよ。だから、ホテルでシてんじゃん」
「じゃあ、ふたりで住める部屋、借りちゃう?」
誘うようにささやくと、敬士が顔をあげた。
「それいいね。家賃と水光熱費半分ずつにしたら、お互い今よりいい部屋に住める。金に余裕もできる」
敬士は乗り気だ。いつ切り出そうかと考えていた話を受け入れられて、令美は溢れる笑みを隠しきれない。
「同棲だよ。同棲。いいの?」
「いいよ。それなら毎晩レミとできるし。同棲しよ、レミ」
令美は感極まって敬士に抱きつき返した。
「本当? 嬉しい!」
こんなに簡単に同棲に了承してくれるなんて、敬士はこの恋に夢中なのだろう。令美は満足と高揚を感じた。敬士はすっかり自分のものだし、住環境も改善できる。都心から遠く古いマンション暮らしも終わりだ。