かつて女の子だった人たちへ
服につかないように被っていたタオルをはずし、鏡で全身を確認する。

「完璧」

令美は呟いた。
本音を言えば、もっと目がぱっちりと大きければいいと思う。虹彩が理想より小さいのは、どうにもならないこととはいえ気になる。
身長もあと五センチ高ければ良かったと思う。メイクをしていて頬骨が出っ張っているように感じることもあるし、小鼻の形も気になる。
だけど、現状、自分の素材は百パーセント近く活かせているように思う。それだけの時間と手間はかけているのだ。

「でも、爪がイマイチね」

先週変えたばかりのネイルは、想定より地味でつまらなく見えた。新店のオープンキャンペーンで安かったものの、毎日見る部位なのでどうにも気になる。

「やっぱ、いつものお店にいこ」

令美は通勤カバンを持ち、築三十年のマンションを出た。
このカバンは取引先の取締役の男性が買ってくれたハイブランドの品だ。何度かデートしただけで勝手にくれたので、パパ活だとは思っていない。素肌や髪の毛、メイクにお金をかけているので、どうしても服や小物まですべてはまわらない。こういった贈り物は助かるというのが正直なところだ。それに男性がプレゼントを贈りたいほど魅力的な女性である自分は誇らしい。
< 2 / 165 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop