かつて女の子だった人たちへ
その日の朝はぎりぎりの出勤となった。敬士と朝から抱き合い、慌てて家に戻って着替えて出てきたのだから仕方ない。朝食は食べられなかったけれど、おにぎりやパンなどの炭水化物のみで済ませるのは嫌だったので、抜くことにする。
メイクはしっかりしたが、髪の毛に時間をかけられなかったので、今日はわざとラフに結んで、おくれ毛を出してみた。

「レミちゃん、今日髪型違うじゃん」

デスクについて急いで出勤をクリックすると、男性社員が声をかけてくる。

「えへへ、ちょっと寝坊しちゃって」
「可愛いよ。そういう感じも」

他の男性社員が横入りするように口を挟む。

「レミちゃんをひとり占めしてんなよ。レミちゃん、今日の打ち合わせの後、ランチいかない? 打ち合わせメンバーでさ」
「いいですよ~」

応対しながら、頭の中で敬士と比べる。やはりどう考えても敬士の方が優れている。おそらく十年後の収入は大きく差ができるだろう。
好意を示してくる男性は『使える』からいいのだ。業務上何かあれば助けてくれる。

「ちょっと、久原さんいい?」

声をかけてきたのは丸岡。うしろには川崎という女子社員も控えている。川崎は令美よりひとつ下である。

「はい、なんでしょう」
「昨日作ってくれた資料、間違えてるから、すぐに直して」

手渡された資料を令美は一瞥して突き返す。

「川崎さんにお願いしたものですよ」
「元は久原さんが作る予定のものだったでしょう。それにチェックは久原さんがすべきじゃない」
「後輩の経験になる仕事は回していいって言ったのは丸岡さんじゃないですかぁ。それに、川崎さんが資料を作り終えたのって私が退勤した後ですよね。一言あれば、残って待っていましたけど~」
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