かつて女の子だった人たちへ
平然と笑顔で答える令美に、川崎はひっかかりながら訴える。

「わ、私は自分の業務で手一杯で……久原さんのお仕事まで回らなくて」
「あれ~? じゃあ、お仕事を頼んだタイミングで言ってくれないと~。それに、私にチェックを頼まないで、丸岡さんに直接出したんでしょう? それで間違えたら、川崎さんの責任じゃないかな?」
「それは……! 久原さんがもう社内にいなかったので……!」
「定時過ぎてたし、何も言われなかったから帰っただけだけど?」
「あなたが振った仕事でしょう。責任持ちなさいよ! 定時にあがりたくて、川崎さんに仕事を押し付けたくせに!」

丸岡が怒鳴るように言った。近くにいた社員たちが驚いた顔でこちらを見る。令美に先ほどまで話しかけていた男性社員たちはまだ近くにいて、こちらの様子を伺っている。

「押し付けただなんて、ひどい」

令美はわざと悲しげに顔をゆがめた。

「丸岡さんのおっしゃる通り、後輩の経験のためお仕事をお願いしたつもりでした。私が川崎さんに上手に指示ができなかったことと、コミュニケーション不足で、彼女の仕事量に配慮してあげられなかったのが悪いんですね。でも、押し付けたつもりはないです」

実際令美はわかった上で押しつけている。川崎は愚鈍だ。仕事が遅く、令美が渡した仕事もいつも溜めている。しかし、昨日は敬士とデートの約束があったので、遅れたくなかった。
さほど急ぎの仕事でもない。どうせ仕上がりは遅いのだから、もうひとつくらい増えても問題ないだろうと思ったのだ。
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