かつて女の子だった人たちへ
「そんなふうにおっしゃられると私も……」
「泣き落とし? あざとすぎじゃない?」

やりとりを注目されていたせいか、丸岡の声が想像以上にオフィスに響いた。それはまるで丸岡が後輩の令美をいじめているような光景だった。

「丸岡さん、きつ」
「こわ」

男性社員からそんな声が聞こえる。令美に話しかけていた男性社員がもどってきて、令美をかばうように間に入った。

「丸岡さん、聞こえてたけど、べつに久原さんそこまで悪くないんじゃない? そもそも後輩に仕事振っていいって言ったのは丸岡さんなんでしょ?」
「それは……」

丸岡は自分が悪者の雰囲気になってしまったことに狼狽しているようだった。

「川崎さんもさ、久原さんすっとばして丸岡さんに仕事戻すからこうなるんじゃない?」
「つうか、言い方に悪意ありすぎ」

他の男性社員の嘲笑めいた声もかかり、女性ふたりが怒りとも困惑ともつかない顔で黙り込む。令美は勝ったと思いつつ、立ち上がりぺこりと頭を下げた。

「丸岡さん、川崎さん、私の配慮が足りずご迷惑をおかけしました。この件は私がやり直します」

オフィスの男性社員たちはこれで完全に令美側である。女性社員は令美のパフォーマンスを苦々しく見ている者も多いだろう。それでいいのだ。

「今日中によ」

丸岡は吐き捨てるように言って、オフィスを出て行った。川崎も後に続く。
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