かつて女の子だった人たちへ
「レミちゃん、大丈夫? 俺も手伝おうか?」
「丸岡さん、怖かったね。あれなに? ヒステリー?」

男性社員たちがちやほやと周囲にやってくる。令美は困ったように微笑みながら「大丈夫です」と答えた。

「ひとりでできます」

実際、その仕事は令美の手にかかれば、いちから作り直しても一時間足らずで終わるものだ。ここまで大騒ぎする理由はないので、これは丸岡たちの嫌がらせのひとつなのだろう。

(かえって自分のイメージを悪くして、馬鹿な女)

令美はキーボードを打ちながら考える。関数を挿入して、表をどんどん作っていく。

(っていうか、こんな仕事も終わらないとか。能力ないってカワイソ)

令美は面白い気分で仕事を進めていった。
鞄の中ではスマホが振動していて、そこには弓からのメッセージが入っていたのだった。



数日後、令美は弓と仕事帰りに待ち合わせていた。
令美の職場である汐留にきてくれた弓とチェーンのカフェバーに入る。軽食とお酒が楽しめる店だ。
夕食に誘ってきたのは弓である。おそらく恋愛中で、浮かれた気分を誰かに話したいのだろう。

「松田さんとはその後どう?」

令美は敢えて弓の希望通りのネタを振る。私はとっくに寝たけどね、と心の中でほくそ笑みながら。
弓が照れたように笑った。

「全然。普通の同期だよ~!」
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