かつて女の子だった人たちへ
翌週水曜、令美は仕事を定時に上がり、新宿へ向かった。
弓から今日どこに行くかは聞いている。コーヒー―ショップで時間をつぶしながら待った。

(そろそろかな)

ふたりが食事に入ったビル一階のイタリアン近くで待機し、敬士にメッセージを送った。

【近くに来てるよ】
【ちょっと出られない?】

間もなく、敬士が店を出てきたのを確認し歩み寄った。

「レミ、どうしたの?」
「今日は弓と買い物だって聞いてたから。退屈してるんじゃないかって会いにきちゃった」
「もう、驚いたよ」

敬士は明らかに嬉しそうな顔をしている。恋人のサプライズが嬉しいようだ。

「仕事かもしれないけど、弓とふたりきりは嫉妬しちゃう」
「仁藤さんとはただの同期だって。俺が好きなのはレミ」
「本当?」

人通りの多い道で周囲の目も憚らず、敬士の身体に身を寄せる。首に腕を回して見上げると、敬士はもう欲でいっぱいの目で令美を見つめていた。

「顔もスタイルも性格もレミが最高。レミは世界で一番いい女だよ」

そう言って首筋に口づけてくる。カップルが衆人環視の中いちゃついていても、新宿の人混みにおいてはそう目立つものではない。しかし、令美は知っていた。弓と敬士が利用していたイタリアンは道路側の壁がすべて窓なのだ。休日は全開にして、外にテラス席を設けたりしている。

ちらりと横目で見ると、店内から弓がこちらを見ていた。愕然とした顔をしていた。



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