かつて女の子だった人たちへ
一方で敬士が口にした結婚や老後の資金についてが、どこかで借りてきたような言葉なのが気になった。
「敬士、一応もう少し調べた方がいいよぉ。失敗したっていう話も聞くし、投資詐欺もあるらしいし」
「え、何? レミは俺の先輩を疑うわけ? 何も知らないのに?」
上機嫌だった敬士が一転、不穏に表情を凍り付かせた。
「女の子は数字苦手な子も多いから、頭使う投資とか、わかんないよなぁ。何より結婚したら専業主婦で悠々自適とか思ってるかもしれないけど、俺は生涯年収を増やすことで自分と家族を守ろうとしてるんだよね。それをよく知りもしないで否定するの、違くない?」
「否定したわけじゃないし。ちょっと慎重になったらって言ってるだけよ」
「おいおい、レミの大学より俺の大学のが偏差値上だよ? 会社もそうだよね。人間的に俺の方が上なんだから、主張する権利はないでしょ」
かちんときた、というのとは違う。ぞわっと背筋に寒気が走った。脳裏によぎる男の表情はぼやけている。しかし、耳障りな声は今でも覚えている。父だ。
反射的に令美は口にしていた。
「その言い方、やめて。モラハラだから」
令美の鬼気迫る形相に、横柄だった敬士がぎょっとした顔をした。それからははっとごまかすように笑った。
「やば、俺ら初喧嘩じゃね? ごめんごめん。感じ悪かったね」
「……別に。私も口調がきつかった。ごめんね」
「え~、レミ、機嫌直して? レミを守りたいって気持ちで、言葉が強くなっちゃっただけだからさ」
「うん……」
そうは言ったものの、令美は媚びたいつもの笑顔を浮かべることもできずこわばった顔をしていた。
「敬士、一応もう少し調べた方がいいよぉ。失敗したっていう話も聞くし、投資詐欺もあるらしいし」
「え、何? レミは俺の先輩を疑うわけ? 何も知らないのに?」
上機嫌だった敬士が一転、不穏に表情を凍り付かせた。
「女の子は数字苦手な子も多いから、頭使う投資とか、わかんないよなぁ。何より結婚したら専業主婦で悠々自適とか思ってるかもしれないけど、俺は生涯年収を増やすことで自分と家族を守ろうとしてるんだよね。それをよく知りもしないで否定するの、違くない?」
「否定したわけじゃないし。ちょっと慎重になったらって言ってるだけよ」
「おいおい、レミの大学より俺の大学のが偏差値上だよ? 会社もそうだよね。人間的に俺の方が上なんだから、主張する権利はないでしょ」
かちんときた、というのとは違う。ぞわっと背筋に寒気が走った。脳裏によぎる男の表情はぼやけている。しかし、耳障りな声は今でも覚えている。父だ。
反射的に令美は口にしていた。
「その言い方、やめて。モラハラだから」
令美の鬼気迫る形相に、横柄だった敬士がぎょっとした顔をした。それからははっとごまかすように笑った。
「やば、俺ら初喧嘩じゃね? ごめんごめん。感じ悪かったね」
「……別に。私も口調がきつかった。ごめんね」
「え~、レミ、機嫌直して? レミを守りたいって気持ちで、言葉が強くなっちゃっただけだからさ」
「うん……」
そうは言ったものの、令美は媚びたいつもの笑顔を浮かべることもできずこわばった顔をしていた。