かつて女の子だった人たちへ
その日、令美は珍しく残業していた。小玉部長から部署全体への指示で、当初から決まっていた残業である。なるべく定時で帰る令美も仕方なく居残っていた。
一応敬士にも伝えてあるが、彼は遅いだろうし、もとから夕食は別々だ。問題ないだろう。
とはいえ、一時間も作業をすれば仕事は終わった。スマホを取り出し、敬士からの連絡がないかチェックをし、その流れで位置を検索した。

「あ」

敬士は銀座周辺にいる。オフィスでも家でもなく。残業していたのではないのだろうか。
会社を出て、同僚たちの通らない路地で電話をかけたが、敬士は電話に出ない。

【敬士、お疲れ。残業が思ったよりも早く終わったから電話しちゃった。
仕事中だったよね】

メッセ―ジを打つと、すぐに返事がきた。

【悪い。まだ職場。今日も遅くなりそう】
「へえ」

令美は再び敬士の位置を確認する。敬士は職場のある神田近辺ではなく銀座にいる。
会社の飲み会ならそう言うだろう。男友達に会うのだって隠す理由はない。一方で行動を束縛されたくなくて、言わない男性だっているだろう。

「女かな」

直感だった。敬士ならあり得る。



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