かつて女の子だった人たちへ
第4話
もし女と会っているなら、それはどんな女だろう。弓のはずはないと思うが、新たな出会いがあったのだろうか。それとも前から続いている女? 令美と付き合いながら、二股をかけている可能性はあるだろうか。
問い詰めてもしらばっくれるだろう。行動を監視されているのではと警戒される。もう少し泳がせておこう。
考えながら帰宅すると、マンションの前でスマホに着信があった。
敬士かと思ってみれば、弓からだ。あの負け犬が今更なんの用だろう。
「もしもし」
『令美? 今、大丈夫?』
弓のおどおどした声が聞こえてくる。令美はエントランスには入らず、マンション前の街路樹の近くに立った。
「うん、大丈夫だよ」
『長く連絡しないでごめんね』
弓には敬士との関係について謝罪と釈明のメッセージを送ったきりだ。既読はついたが、彼女からの返信はなかった。
「弓、電話ありがとう。話したかったから嬉しいよ。敬士……松田さんのこと、本当にごめんなさい」
そう言う令美は自分の顔が嘲笑に歪んでいるのを感じていた。口調ばかり慈愛を込めてやれば、弓はいつだって丸め込めてしまう。
『ううん、令美と松田くんのことは、応援したいと思ってる。惹かれ合った恋人同士に、私の出る幕はないもの』
弓の声は明らかに震え、傷ついているのが伝わってくる。
「弓、本当にごめんね。ありがとう。そう言ってくれて嬉しい」
『令美は松田くんのこと、好きなんだものね』
令美の頭の中には敬士の顔と、位置情報の示すマーク。好き。彼のスペックも顔もセックスも好きだ。
「もちろん、好きよ」
未来の夫として、令美の人生の糧として。