かつて女の子だった人たちへ
外貨の取引について、わからないのに口出しするなと言われればムカつくが、令美には理解できない世界だし、説明を求めて敬士が機嫌を損ねるのも面倒だ。線引きとして、家賃などの最低限の支払いが滞るようなら、やめさせよう。

(結婚するなら、私たちふたりの資産になるんだから。無駄遣いさせられない)

敬士は上場企業の期待の社員。確かにゆとりはあってもいいが、そのまま堅実に勤めていたってそれなりの生活は送れるはずだ。

(考えてみれば、別に子どもだっていなくてもいいよね。そうすれば、もっと生活にお金を割ける)

自分の性格上、自身の子どもでも上手に関わることはできないだろう。自分の親がそうであったように。それなら、生涯自由に使えるお金が増えた方がいい。

「レミちゃーん」

木本という男性社員が話しかけてきた。独身でふたつ上、顔は普通、仕事ぶりも普通の男。定時後に早く帰りたいと仕事をしているというのに。なんの用だろうと令美は作り笑いで見上げる。

「最近、頑張ってるね。女子社員にいじめられたりしてない?」
「大丈夫ですよぉ」
「俺、いつでも相談にのれるからね」

相談はどうでもいいから、邪魔しないでほしい。とっとと仕事を終わらせて帰りたいのだ。

「ねえ、今日さ夕飯食べに行かない?」
「あー……、家に残り物があるんですよね~」
「それ、明日持ってきなよ。俺が昼飯にするから。今日は俺とごはん行こ」

ランチはともかく終業後の食事の誘いは利になる相手としか行かない。令美の立場を守ってくれそうな人間、令美を引き上げてくれそうな人間。そうなると必然、社内外の部長職以上の人間になる。誰とでも寝るようなことはしないが、プレゼントは受け取るし、二度目の食事の約束だって受ける。
少なくとも、この木本と食事に行く理由は令美にはない。
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