かつて女の子だった人たちへ
木本への態度が広まったのか、徐々に令美の周りには人がいなくなり始めていた。しょっちゅう話しかけてくる男性社員は減った。
既婚で木本らとはあまり接点のない他部署の男性社員は、まだ気安く話しかけてくる。おそらくは役職者に食事に誘われるようなこともなくなりはしないだろう。彼らは若い令美とひと時を過ごすことが楽しいのだ。恋人にしたくて接近してくる未来のない男たちが一掃できたのは、令美にとってはいいことだった。
しかしその日、オフィスであるメッセージを受信した瞬間、令美の表情はこわばった。

【昨日は楽しかったね。
時間作るから、また行こう】

敬士からのメッセージは明らかに令美宛てのものではない。昨日は平日で、敬士は残業。令美は仕事後家にいた。
即座にスクリーンショットを撮った。数分後、メッセージは送信取り消しをされていたが、証拠は令美の手にある。

「どこに行ったって言うのよ」

口の中で誰にも聞こえない声でつぶやく。昨日、敬士の位置情報はオフィスから動いていなかった。二十三時にオフィスを出た後も寄り道せずに帰ってきたのは確認してある。

(もしかして、仕事鞄をオフィスに置いて外に出てるの?)

可能性はおおいにある。敬士が令美の監視を気づいていたとしたら、アリバイ作りに鞄を置いて財布やスマホだけ持って会社近くで誰かと会うことはできる。その後にオフィスに戻り、鞄を持って何食わぬ顔で帰宅すればいい。
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