かつて女の子だった人たちへ
「じゃあ、丸岡さんが代わりに部長の同行してくれます?」

令美の笑顔に少しだけ嘲笑が混じる。これは丸岡にも感じ取れるだろう。
求められているのはあなたじゃなくて私、という態度が透けて見えるに違いない。

「私が代わりに行ったら、チームの打合せができないじゃない」

チームリーダーの丸岡は打ち合わせを抜けられない。答える彼女の顔は、苛立ちで引きつっていた。

「ですよね。丸岡さんはチームに絶対欠かせない人ですけど、今日の打ち合わせは私がいなくてもいいじゃないですかぁ。なので、私は小玉部長に同行します。すみませんがよろしくお願いしまーす」

丸岡はもう何も言えなかったようだ。打ち合わせを軽んじて、部長のさして重要でもない外出に同行する姿勢を責めたいのだろうが、令美が聞かないだろうことも伝わっただろう。
そこに別の男性社員が令美を呼ぶ声が聞こえた。
令美は丸岡に背を向け「はーい」と愛想よく返事をするのだった。

得になる方を優先するのは当然だ。仕事に支障が出ているわけではないし、むしろ効率はあがっているはず。
だから、女子社員がひそひそと悪態をついているのが聞こえても、令美は気にならない。
彼女たちはブスだ。
見た目に気を使えないから、男が寄ってこない。男が寄ってきたとしてもうまく使えないから、仕事の能率があがらないし評価されない。すべてうまくやっている令美を恨むなどお門違いなのだ。

(ブスは黙ってろって感じよね)

令美は心の中で呟いて、少しだけ笑った。

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