かつて女の子だった人たちへ
彼らのいつものホテルというところは、神田駅近くの古いラブホテルだった。なるほど、敬士の会社からは徒歩五分ほどの立地で、職場に荷物を置いて身軽にやってくるにはちょうどいい距離だった。
逢引の日付さえわかれば張り込むのは簡単だった。
路地からは待っている敬士の姿が見える。大通りをやってきた女はあの“みぃ”だ。顔も不細工だが、格好はロマンティックなレースブラウスに膝丈のフレアスカートというスタイルだった。厚底のエナメル靴も履いている。女子高生くらいが着ればまだ愛らしくも見えるかもしれないが、令美の目から見てダサいを通り越して完全に痛々しい部類の服装である。

「たかくぅん」
「みぃ、お待たせ。いこっか」

ふたりが腕を組んでホテルのある路地に入ってきたところで令美は姿を現した。
敬士がびくりと肩を震わせる。

「敬士、そのキモブスが浮気相手?」
「レミ、おまえ……つけてきたのかよ」
「そこのホテルで“みぃ”ちゃんとセックスしてんでしょ? 会社抜け出してさ」

令美は先日撮影した敬士のスマホ画像を見せる。敬士が狼狽から怒りに表情を変える。

「信じらんねぇ。スマホは見ないんじゃなかったのかよ」
「浮気しておいて、なんで人の行動を責めるわけ? そもそもパスコードだって教え合ったのに、あんた変えたでしょ」

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