かつて女の子だった人たちへ
第5話
仁藤弓にとって久原令美は幼馴染だった。
幼い頃から一緒で、学校もともに通った。成長につれ、常に一緒に行動するようなことはなくなっても、弓にとって令美は特別な存在だった。
令美は昔から、すべての面において弓にマウントを取らなければ気が済まない性格だった。特に容姿については、弓自身も到底令美にはかなわないと感じていた。令美は本当に愛らしい少女だったし、幼い頃から美意識も高かった。弓はいつも自分の顔を鏡で見て、残念な気持ちになり、同時に可愛らしい幼馴染を誇りに思った。
しかし、令美の圧は年を経るごとに強くなっていった。弓には似つかわしくないと令美が判断すれば、彼女は平気で奪っていく。弓がいい思いをするのは許せないようだった。
おもちゃや文具、果ては好きな人まで、平気な顔をして令美は奪っていった。弓に対し情に訴え、ありがとうごめんねなどと言いながら、さも当然といった顔で笑う。
弓とて人間だ。馬鹿にされこけにされ続けた二十六年間を苦々しく思う気持ちはある。
そんな折だ。
『仁藤さん、桐谷先輩と結婚決まったんだって? おめでとう。俺にも誰か女子を紹介してよ』
声をかけてきたのは同期の松田敬士だった。
敬士の噂は充分知っている。社内で何人もの女性を渡り歩いた結果、女子に毛嫌いされている男だ。