かつて女の子だった人たちへ
しれっと悪びれもせず言う弓。

「そうそう、もし松田くんと別れることになるなら、お金の問題はしっかりしておいた方がいいかも。彼、社内でいろんな人からお金を借りてるみたい。外貨取引で成功してるから、運用してあげるって。令美のお金にも手を付けられていないといいわね」

社内でも金をかき集めていたとは知らなかった。敬士の行動にぞっとしながらも、令美には弓への怒りの方が勝っていた。

「いい加減、しらばっくれるのはやめなさいよ、弓。あんた、私に痛い目を見せようと、ああいうクズ男をあてがったでしょう。私があんたから奪いたくなるようにしむけたんでしょう」
「それなら、令美は自分の行動を顧みるいい機会になったじゃないの。今まで何度も私の大事なものを奪ってきた自覚がある? 私が選んだものはいつも安心感があったでしょう。今回はハズレを引いて残念だったね」

最後の言葉の瞬間、弓の瞳に冷たい光が宿った。笑顔がゆっくりと温度を無くしていく。

「弓……あんた……」
「私にとって、令美は大事な幼馴染だったよ。遠足で、私にお弁当をわけてくれた優しい令美のままだった。大好きだったから、何度嫌な目にあわされても我慢した。でもね、結婚が決まって、彼までも令美に奪われてはたまらないって思ったの。令美が私の幸せを破壊しにくるんじゃないかって不安だった」

弓の表情にもう笑顔はなかった。小さな眼の中に、光をなくした冷徹な色の虹彩が見える。

「松田くんはテストだったの」
「テスト……?」
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