かつて女の子だった人たちへ
「また令美が私の『好きな人』を奪うかどうかのテスト。令美は当然のように、私を出し抜いて松田くんを恋人にしたね。結果、テストがトラップみたいになっちゃった」

令美は言葉を失い、弓を凝視した。目の前にいるのは本当に自分の幼馴染なのだろうか。内気で人畜無害、草食動物のような弓はどこに行ってしまったのだろう。

「令美は美人な自分に絶対的な価値があると思っているでしょう。でも、三十代四十代もその価値観でいくの? 容姿は変化していくのに? 意識をアップデートしていかないと痛い女になっちゃうよ」
「うるさい……ブスの癖に生意気言ってるんじゃないわよ」

令美が唸るように言うと、弓は細い目をさらに細めた。切ない笑顔が浮かんでいた。

「面と向かって私にブスって言ったのは初めてだね。子どもの頃から令美が陰で言っているのは知っていたけど。……それでも、ずっと令美が好きだったよ。お弁当をわけてくれた幼馴染の令美が。可愛くて、勝気な令美が。内気な私と離れずにいてくれた令美が。羨ましくて大好きだった」

弓がくるりと令美に背を向けた。

「さよなら。きっともう会うこともない」

弓はそう言って公園を去って行った。令美は呆然とその丸いシルエットの後ろ姿を見送った。
すべては弓の手の上だった。
ずっと侮り続けた女に、最後の最後で仕返しをされた。
そして、最後まで弓は令美を好きだったと言った。
そのことが令美を何よりも傷つけた。彼女は、ずっと令美を見ていたのだ。馬鹿にされていると知りながら、ひどい目に遭わされながら、それでもつかず離れずの距離にいたのは弓だった。
それが令美への哀れみであったとしても、弓は傍にいたのだ。

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