かつて女の子だった人たちへ
令美の額の傷と打ち身は腫れて、目のあたりまで青黒く変色して眼帯程度では隠せないほどになっていた。傷を負った金曜の夜には夜間診療の病院に行き、幸い縫わなくてもよかったが、額に傷は残るかもしれないそうだ。何より腫れが引かない。

令美が弓に会いに行っている間に、敬士は自分の荷物をいくつか持って行ったようだ。クローゼットから敬士の衣類や鞄がなくなっていた。
メッセージアプリに何度か連絡をしたが、既読もつかない。そのうちブロックされたのか、送れなくなった。ＳＮＳも把握しているが、アカウントが消されている。
敬士は本気で別れる気だろうか。令美の前から姿を消すつもりだろうか。スペックは惜しいが、令美を傷つけ、謝罪もしなかった敬士を許す理由はない。

（あんな男、こっちから捨ててやるわ）

しかし、同棲にかかった費用はかなりの額になる。敬士の希望で令美が買ったテレビやソファは、下取りに出してもいくら回収できるかわからない。
そもそもこのマンションにもいつまでも住んではいられないのだ。来月分の家賃を払ってしまったため、もうひと月はいられるものの、令美の貯金は底をつきそうになっている。新居への引っ越しにはクレジットカードで借入が必要かもしれない。限度額は上げられるだろうか。
すべては敬士が当初予定していた金銭を払わなかったせいだ。さらには勝手にいなくなるなんて許しがたい。
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