かつて女の子だった人たちへ
マンションの退去日は半月後、新居は決まっていない。会社に通えて、家賃はほどほど。わずか四ヶ月のシティライフは呆気なく終わりをつげ、後には散財の結果と顔の傷しか残らなかった。
大きな家具は下取りに出したけれど、二束三文にしかならず、新居の契約費用にも困っている。クレジットカードの明細を見て、不安に震えた。まだ敬士との仲が続いていた先月は、こんな未来を予想もせずに普通に買い物をしていた。食事代や衣服、ネイルサロンとエステの支払い……。一時的に工面しなければならない金額が多すぎるし、当分ネイルもヘアサロンもエステも行けない。

「借金はできない……」

一度は考えたものの、やはりクレジットカードの借入は避けたい。なし崩しになる気がするのだ。悩みに悩んで、令美は母親に電話した。

「もしもし、お母さん」
『令美、久しぶり』

電話すら三年ぶりくらいだ。現在、両親とはほぼ接点を持っていない。

「あ、あのね。引っ越すことになって、一時的に荷物を……預かってもらえないかなって」

いきなり借金の相談はできなかった。プライドもあったし、しわい父から生活費をもらっている母にいきなり自由になるお金はさほどないだろう。様子を見てからだ。

『いいわよ。お母さん、今大宮のおじいちゃんの家にいるから、そっちに送ってちょうだい』
「え?」

亡き祖父母の家、つまりは母の実家だ。
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