かつて女の子だった人たちへ
管理課は退職を待つような古株の社員たちが、資料整理や庶務雑務をしている課だ。内勤になるので、営業手当がもらえなくなる。
顔が腫れあがっているときは、外出やアポイントは避けていた令美だが、傷が治ってからはきちんと外勤を務めている。

「もう、営業に出られます。内勤の部署に変えられる理由はありません」
「久原くん、この前の怪我は不憫だったと思うけど、上にも色々聞こえてくるからねぇ」

令美に下心のある態度で接してきた小玉の言葉とは思えない。

「変な噂が流れているようですが、事実ではありません。転んで怪我をしただけです」
「ともかく、上が決めたことだから。おそらく今週中に正式な内示が出る。準備しておいてくれ」

小玉はそう言うと、先にミーティングルームを出た。

「待ってください!」

追うような格好でミーティングルームを続けて出る。ミーティングルームを出るとすぐにオフィスなので、社員たちの視線が一斉に令美にそそがれた。
すると、どこからか声が聞こえた。

「小玉部長にも振られた?」
「枕しかできないのに、相手にしてもらえないの可哀想」

くすくす笑う声。令美はあたりを見回した。オフィス中の人間が口元に嘲笑を浮かべている。
味方はもういない。
わかってはいたが、これ以上は何をやっても駄目なのだ。仕事すらこうして取り上げられる。
誰かが落ちていく様をみんな見たいのだ。その対象に選ばれたのは令美。華やかだった人間ほど、転落は愉快に違いない。

(もういいや)

令美は唇を引き結び、オフィスを出た。

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