かつて女の子だった人たちへ
異動からひと月が経った。久原令美の日常は続いていた。

朝はしっかりメイクをする。傷を隠し、肌色を美しく見せるために時間をかける。
だいぶ売り払い少なくなった服を組み合わせ、今日のコーディネイトを決める。内勤者は制服着用なので、通勤はどんな服でもいいが、以前と変わらぬ甘めのオフィスカジュアルを心掛けている。
ネイルは自分でオフし、磨いた爪に安いマニュキュアを塗る。サロンに行く余裕はない。
使っていたスキンケアは譲れないものだけ買い続け、あとはランクを落とした。メイク道具もそうなるだろう。
自分で染めた髪にヘアアイロンを巻いて、美しいウェーブを作る。前髪まで仕上げ、スプレーワックスで固定。
収入のほとんどは美容用品に消え、残りは家賃とクレジットカードの返済にあてる。わずかに残ったお金を食費にするので、朝のスムージーはやめた。生野菜は高いのだ。
幸いランチにもディナーにも誘われなくなったため、借り入れた額は順調に返せるだろう。

会社では、ほとんどずっとオフィスにいる。出歩く用事もないし、以前の部署の人間に会えばムカつくだけだからだ。
管理課の四人の同僚は皆五十代で、うだつがあがらない令美が最も嫌いなタイプの人間だった。彼らは挨拶しかしない令美を持て余しているようだし、令美からも媚びを売る予定はない。仕事は退屈そのもので、たまに午後何もやることがない日もある。定時にはあがれるが、時間を浪費している感覚は令美の心をどんどん寒々しくしていった。
< 68 / 165 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop