かつて女の子だった人たちへ
こんな会社、辞めたい。
しかし、借金を抱えた状態で転職活動は不安だった。新卒で入ったこの会社以上の収入を得るのは並大抵のことではないだろう。
居心地は最悪でも、勤め続ければ生活はできる。

一度だけ警察から連絡があり、敬士が詐欺の容疑で捕まったということを聞いた。正確には話に出ていた先輩らが主犯で、敬士は巻き込まれる形で共犯になっていたらしい。電話で交際していた事実を伝えた。それだけは胸がすく思いだったが、もう終わった話だ。敬士にかけた金は戻ってこない。

たまに弓のことを思い出す。
弓は今頃新天地で夫と暮らしているだろう。おそらくは幸せに笑っている。
本当は令美こそが弓を羨ましく思っていた。誰からも好かれる弓が。家族仲良く、幸せそうな弓が。令美がどれほど自分を磨いても、母の期待に応えても、得られなかったものを手にしている弓が……。
令美が羨ましさからしていた行動を、弓は感じ取ったがゆえに許し続けていたのかもしれない。

(同情してほしいなんて思ってないから、絶対に言わないけど)

自覚したとて、今更弓に謝罪する気はない。弓も令美を陥れたのだ。
そして、もうあの幼馴染と会うこともないだろう。弓は令美の前から消え、今度こそ大事なものを守った。

令美は昼食の栄養補助食品を手に、休憩する場所を探して二階をうろうろしていた。
管理課のある二階はあまり日が差し込まないし、資料庫や備品室がある階なので人も少なく陰鬱な雰囲気だ。
いつもは辛気臭いオフィスで昼食を食べる令美だが、ふとこの二階なら誰とも会わずにオフィスの外で食べられるかもしれないと思ったのだ。
< 69 / 165 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop