かつて女の子だった人たちへ
「あの」

凍り付いて言葉をなくした令美に、女子社員がおずおずと話しかけてくる。

「いきなり、べらべらしゃべっちゃってすみません。えーと、玉子焼き、食べませんか? 箸、まだ使ってませんので!」

彼女はそう言って玉子焼きを弁当箱から摘まみ上げる。令美は数瞬迷い、それから無造作に指で受け取り、口に放り込んだ。

「あっま……」

玉子焼きは柔らかくしっとりと甘い。優しい味がする。

「あ、玉子焼きはしょっぱい派ですか? 出し巻き派とか」
「私の方が美味しく作れるわよ、これ」
「え~!?」

令美の嫌味に、女子社員が困ったように笑った。




(了)


< 73 / 165 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop