かつて女の子だった人たちへ
メリーさんの推し
第1話
推しがいるから、私の退屈な人生には意味がある
「レイキ、それ本当?」
芽里(めり)は小さな目を精一杯大きく見開いて、目の前の青年を見つめた。
レイキと呼ばれた青年は、執事の服装をしている。といっても、本物のバトラーというよりはファンタジー世界に登場しそうなキラキラゴテゴテの飾り付きの執事だ。片方だけの丸眼鏡もしている。
メンズコンセプトカフェ『メルティ』は今、執事フェア中なのだ。
そのレイキはこくこくと何度か頷き、嬉しそうに芽里に答える。
「そう。そうなんだ! やっとだよ。全部メリーさんのおかげだよ」
レイキの笑顔に、芽里もまたゆるゆると頬を緩める。実感が徐々に湧いてくる。
「やったね、アイドルになれるんだね。私も嬉しいよ、レイキ」
「選んでもらえるなんて思わなかったから、夢みたいだ」
「レイキの地道な努力を、運営は見ていてくれたんだよ」
そうかなあと照れた様子ではにかんだ笑みを見せるレイキ。芽里は嬉しくて、この気持ちをどう表現したらいいかわからない。
「あのさ、お祝いにボトル入れようか」
「え、いいよ。メリーさんはいつも頑張って通ってくれてるんだから、無理しないで」
「でも、記念だから。それに、アイドルになったらレイキはここを卒業でしょ」
普段芽里はシャンパンなどの高額なメニューを頼まない。しかし、おめでたい報告をしてもらい、どうしてもレイキへのはなむけを送りたかった。
「それじゃさ、今日はチェキだけにして、ボトルはここの卒業イベントの時にしてよ。メンバーのレノとチヅも一緒に卒業だから、俺だけ誰からもおめでとうのボトルがないと寂しいじゃん」
「う、うん。レイキがそうしたいなら」
「俺はメリーさんが来てくれるだけで嬉しいんだよ。アイドルになっても応援してくれる?」
「もちろんだよ。レイキは私の推しだもの」
芽里は不器用に微笑んだ。レイキが夢を叶える。それは芽里が夢を叶えるのと同義だった。