かつて女の子だった人たちへ
芽里の肩を抱きながらもう片手でハートを作っているレイキ。そのツーショットチェキを大事に鞄にしまいながら、新宿駅のホームで芽里は電車を待っていた。

浅見(あさみ)芽里、二十五歳。事務用品を扱う小さな商社・只野田(ただのた)商事で一般職として働いている。
仕事は特に楽しいとは思わないが、真面目に勤めていればほどほどに給料はもらえるし、一般職は残業も少ない。それが都合がいい。なにしろ、芽里の人生の楽しみは会社の外にあるのだ。

推し活。
芽里にはかけがえのない推しがいる。

メンズコンセプトカフェ『メルティ』に勤めるふたつ年下の男子・レイキが、ここ一年ちょっとの芽里の推しだ。

(レイキがいるから、仕事も頑張れる。レイキに会いにいくお金を稼ぐんだもん)

もともと子どもの頃からアニメや漫画が好きで、友人たちとは趣味の話題で盛り上がる方だった。
好きだった作品の舞台化をきっかけに、所謂2.5次元作品にハマったのは大学時代。現実にはないはずの世界観を生身の男の子たちが演じるのは、違和感よりゾクゾクした。脳がバグって、それが興奮に変わっていくような感覚だった。
キャストの数人が、舞台のないときはコンセプトカフェに勤めていると聞き、早速オタク仲間と出かけた。それが芽里のコンカフェデビューとなった。
最初のコンセプトカフェでは、舞台出演者とは会えたがさほど夢中にはなれなかった。
そのうち、オタク仲間とは好きな作品やジャンルが変わることで疎遠となっていく。芽里はいくつかのコンカフェに通い、そのうちひとつ、ここ新宿の『メルティ』でレイキと出会った。
< 75 / 165 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop