かつて女の子だった人たちへ
何よりレイキは、本当に優しいのだ。
芽里が普通の会社員だとわかっているので、無理に来店やボトルをせびったりはしない。レイキ目当てで来る可愛くて派手な女の子たちもいるけれど、地味で年上の芽里を差別したりしない。
仲間内でもおどけ役を引き受けて、自分より年下のキャストを立てる。顔も、彫りが深いイケメンというより気の好い雰囲気の塩顔。そんな自分をわかっているのか、いつも一生懸命で健気なのだ。そんなレイキが芽里は好きだ。

(レイキは最高の推し)

芽里は思う。恋ではない。推しなのだ。

(恋愛みたいに面倒くさくない。レイキの頑張りが、私の癒しで活力なんだよね)

その推しが念願のアイドルデビューをする。
レイキの勤める『メルティ』は、運営母体がアイドル事業も展開している。人気のあるキャストでグループを組ませ、地下アイドルデビューさせるのだ。いくつかグループはあり、まだメジャーデビューはしていないががっちり固定客をつかんで収益をあげているらしい。

(レイキはアイドルをやりたくてメルティのキャストになったって聞いた。やっと夢が叶うんだ)

いい報告を聞かせてもらった。レイキとコンカフェで会えなくなるのは寂しいけれど、アイドルになるなら応援するのがファンの仕事だ。

(明日も仕事、頑張ろう)

山手線がやってきた。人の波に飲まれつつ車内に入り、つり革につかまる。芽里は噛み締めるように目をつむり、幸せのため息を漏らした。

< 77 / 165 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop