かつて女の子だった人たちへ
芽里はすり寄るように続ける。

「距離も近いみたいだし、特典会っていう物販やチェキ撮影の時間もあるんだって。近くにしょっちゅう会える推しを作ったら、唯も楽しめるんじゃないかなあ」
「それってリアコとどう違うの?」

芽里からしたらとんでもない話だ。すかさず反論する。

「全然違うよ。私はあくまでレイキのファン。メンコン(※メンズコンセプトカフェ)時代だって、店外デートなんかしたことないし。わきまえてるよ」

来店などのポイントをためれば『メルティ』では店外でプリクラを撮ったり、デートをしたりというサービスを受けられた。
芽里はポイントがたまるまで通い詰められなかったのだが、店の外でまでレイキの時間を拘束したくないという気持ちもあった。一線を引いておきたかった。

「推しとファン。その関係が一番平和で幸せでしょ。唯だって、亮くんに望むのは、格好いいライブパフォーマンスや、ドラマなんかで活躍することだよね」
「まあ、そうね」
「私だって、同じだよ。レイキの恋人になりたいんじゃないの。応援したいだけ」
「母性に近いのかねえ、芽里の感情って」

母性。言われてみれば、確かにそうかもしれない。
レイキの愛嬌のある顔や仕草を可愛いと思う感情も、優しさを愛しいと思う感情も身内のそれに近い。だから、彼がアイドルとして多くの人に愛されたら、もっと嬉しいのだ。
< 81 / 165 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop