かつて女の子だった人たちへ
「ステージ、そこの段差?」

唯がひそっと話しかけてくる。段差。確かにちょっとした段差程度のステージが目の前にある。客との距離もものすごく近いようだ。

「たぶん。先輩グループもみんなここを使ってるみたいだよ」

芽里もこそこそと返事する。

「先輩グループっていくつくらいあるの?」
「ええと、私も詳しくないんだけど、三つ? この前、ひとつ解散しちゃったから、今はふたつ?」
「そのふたつはメジャーデビューできそうなの?」

そんなの知らない。芽里はレイキ以外に興味がないのだ。

「なにもメン地下グループの全員がメジャーデビューしたいわけじゃないんじゃない?」
「いや、メジャーデビューは目標でしょ。そうでなきゃアイドル目指さなくない?」

確かにレイキはアイドル志望なのだから、地上アイドルを目指しているのかもしれない。『ミルkey』で武道館ライブを夢見ているなら、そこまで押し上げてあげるのがファンであり、オタクである。

そうこうしているうちにライブハウスは混みあってきた。最前列は十名ほどでいっぱいのステージだ。
芽里が感じたのは、客層の若さだった。二十代前半か、十代後半。芽里たちよりいくつか若いだろう子たちが多い。服装は量産型、地雷系と言われる雰囲気の子が大半。セクシー路線のワンピースやボーイッシュ路線の子もいるが、少ない。芽里が張り切っておろしてきたベージュのワンピースは大人っぽいはずなのに、かえって年齢を強調して浮いて見える。唯などジーンズ姿だ。

(気にしなくていいや)

芽里は鞄からキングブレード(※ペンライト)を取り出す。キンブレはこの日のために購入した。レイキのメンカラーが緑だと聞いていたので、緑色に光らせるつもりだ。
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