かつて女の子だった人たちへ
「私の話はいつでも聞けるから、松田くんの話を聞こう。この前、先輩と産油国の現地に行ったときの話とか」
「え~、仕事なんか退屈させちゃいそうだよ。それより、趣味の話とかどう? 最近ボルダリングにハマってるんだけど。久原さん、興味ない?」
「興味あるある。お仕事も趣味も、どっちもお話聞きたいなぁ」

頬杖をついて身を乗り出して見せる令美。弓が嬉しそうに顔をほころばせている。

(馬鹿だなぁ、弓)

弓のことだ。令美と好きな彼が盛り上がってくれているのが嬉しいのだろう。令美が目の前の男性をどういう目で見ているかなんて気づきもせずに。

(まあ、弓にはもったいないよね。このスペックの男は)

そんな心中はおくびにも出さず、令美は笑顔を張り付けたまま考えた。

(この男、欲しいな)

三人の会は和やかに進む。令美は丁寧に相槌を打ち、ときに明るい笑い声をあげ、敬士の話を聞いた。弓はずっと、楽しそうにニコニコしていた。





令美と弓は幼馴染ではある。
しかし令美にとって弓は、子どもの頃から凡庸で面白みのない女だった。
ぽっちゃりとしていて目が細く鼻が丸く地味な弓。ずんぐりした体型に、いつも子ども服ブランドのダサいトレーナーやズボンを着ていた。質はいいけれど、ダサい品だ。
髪の毛は長めのボブヘアで、大人になった今でこそカラーなどはしているようだが、黒がこげ茶になった程度の変化しかない。子どもの頃は真っ黒で、祖母の家で見た木目込み人形みたいだと令美は思っていた。
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