かつて女の子だった人たちへ
「はあ」
仕事中、芽里はため息をつく。レイキのデビューライブは二日前のことだ。
余韻がまだ体に残っている気がする。
次のライブは明日。週二、三回のペースでライブはあるそうだ。明日は先輩グループの『モンスターライク』と対バンだと聞いている。芽里はまだ申し込んでいない。
(入場料が3000円、当日券だとプラス1000円。そのくらいなら週三でも行けなくはない)
動画サイトの公式チャンネルには、楽曲の最中のコール&レスポンスの口上動画や、MIXと呼ばれるコールの練習動画もあがっている。一緒に盛り上げてほしいというメンバーのメッセージに、心惹かれるものはある。
(でも、チェキ代が……。一枚じゃろくに喋れない)
レイキと時間を共有するためにはチェキを撮らなければならないのだ。1枚1000円、10枚なら1万円。
手取り17万円、住宅手当なしの単身者である芽里には厳しい。
(貯金、8万円くらいしかないけどそこから捻出しようかな。あとひと月ちょっとで夏のボーナスだし、補填できるはず)
遠出や帰省の予定もない。ボーナスはまるまる生活と趣味に使える身だ。
「浅見さーん、ちょっといいー?」
アルバイトの品田(しなだ)という中年女性が呼んでいる。嫌な予感がした。気の好い人だが社歴が長いため、若手社員をあごで使うところがある。