かつて女の子だった人たちへ
「これ、返品なんだけど、あとで業者が取りに来るから受付まで運んでほしいのよ。誤発注だって」
「多いですね」

段ボール三つ分の中身はコピー用紙のようだ。紙は重い。

「しー。誤発注かけたの課長だから」

人差し指を口の前に立てて、ちらっと課長を見やる。課長は新入社員にお説教中だ。いつもイライラしている課長に文句が聞こえたら、面倒事が増えるだけだろう。

「私、腰痛めちゃっててさあ。重いもの、きつくて」
「わかりました。やっておきます」

コピー用紙をエントランスの受付まで運ぶ。三往復は芽里だってきつい。この会社に若手は少なく、バブル期後半に入社した五十代が一番多い。
非力な芽里は痛くなった二の腕と腰を叩きながら、オフィスに戻った。昼休みになる時刻だ。買っておいたパンとミルクティーを取り出すと、スマホに唯からメッセージが来ていることに気づいた。

『やばいよ』

まずその文言が目に飛び込んできた。

『晒されてるんだけど、あんたと私』

次にSNSのスクリーンショットが貼られている。芽里を横から撮影したもので、隣には唯も見切れている。
心臓がどくどくと変な音を立て始めた。このワンピース姿は間違いなく二日前の『ミルkey』デビューライブだ。
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