かつて女の子だった人たちへ
数日間、芽里は生きた心地がしなかった。
夜は眠れず、食欲もわかない。仕事は行っていたが不安感で落ち着かず、小さな失敗を繰り返した。

ＳＮＳのアカウントには触れていない。鍵はかけたが、アカウント名と写真は拡散されている。拡散といっても同じメン地下を推す界隈でのことだから、一般生活に支障が出るわけではない。それでも、無数の悪意を浴びたのは恐怖だった。

何が悪かったのか。
気は進まなかったが叩かれたネット掲示板をのぞき、中傷書き込みをひとつひとつ読んだ。隠語めいた専門用語を、ネットを頼りに解読したところ、芽里が目をつけられた理由があった。

まず、あのライブは『ミルkey』のデビューライブではあったが、仕切り役の古参ファンがいたらしいのだ。
キーパーソンはセンターを務めるメンバーのジュリンだ。彼は少し前に解散した事務所内の先輩グループ『C‘7』のメンバーだった。彼は『ミルkey』に多くのファンを動員して加入している。
整理券の番号とは関係なしに、仕切り役の指導のもと誰がライブの最前列に入るか決まっていたようなのだ。

（そんなの知らないし）


芽里はスマホを手に鬱々とうつむく。
さらにあのとき、芽里は最前列の中央にいた。中央はセンターのジュリンの真向かいだ。レイキは向かって左端だったので芽里は左側をとればよかったと思ったくらいだ。
最前列を交渉でゲットしていたファンからは、ジュリンのファンでもないのに無断でセンターに居座っているように見えたのだろう。
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