友達未満
「それで、あのとき夏村先に帰っちゃったから返せなくて。こんなに返すの遅くなってごめん。それと、あの時は本当にありがとう。助かった」
「ぜんぜん気にしなくていいよー。なんなら忘れてたし。あの時の英検受かった?」
「うん。夏村は?」
「受かったよー」
ピースサインをするなっちゃんに、秋山も嬉しそうに笑った。
その笑顔を向けられたのはなっちゃんなのに、私がなぜかどきんとした。
教室では見せないような、優しい笑顔だったから。
「でも学校で返してくれてもよかったのに」
「学校で他の組のやつのとこわざわざ行くと噂されるしめんどいわ」
「たしかに。秋山目立つしね」
ケラケラ笑うなっちゃんは、秋山の気持ちなんて微塵も気づいていないようだ。
学校で返すより外でこうして会って返して誰かに見つかった方が間違いなくめんどくさいのに。
「そういえばこのあとってスポッチャで大丈夫? 実咲ちゃんにはいってなかったよね」
待ち合わせ場所だけ聞かされた私はどこへ行くか知らない。
スポッチャはゲームやバレーやローラースケートなど色々できるレジャー施設だ。
「うん。初めてだ、私」
「え、そうなの!? 結構楽しいよー! 秋山は?」
「俺も何回か行ってる」
「じゃあせっかくだし、実咲ちゃんがしたいことたくさんしよー!」
なっちゃんの天真爛漫な笑みが私の心に沁みていく。
最近、だれが私にこんなに優しく接してくれたんだろう。
クラスの人たちは、私を空気のように扱うか馬鹿にするかなのに。
不意に秋山が視界に入る。
秋山は……私を、どんな目で見てるんだろう?
友達になったけれど、普通の友達のなり方とは違うし、空気みたいにもバカにもしてないと思う。
……同情の目、とか?
心の傷に塩を塗るような秋山だから、むしろ哀れみ、の方が近いかも。
「なにしたい? 私はねー、バトミントンがおすすめかな」
「俺はサッカーだな」
「あ、それ、秋山自分の得意なことしようとしてるだけじゃん! それだったら私バスケがいいし!」
秋山はサッカー部だ。上手いかは知らないけど。
私は部活は入ってない。
「ま、空いてるとこまわろーぜ。制限時間もあるわけだし」
「それもそっか。しかも今日日曜だし多そうだよねー」
「じゃあできるだけ早く行こっか」
私がそういうと、二人も頷いて、食べ終えたらすぐに出ることにした。
近くにあるスポッチャはバスでしか行けなくて、私たちは駅に戻ってバスに乗ることにした。
バスは駅が始発ということもあって、席に座ることは出来たけど後ろは空いてなくて、一人席に秋山、二人席に私となっちゃんが座った。