友達未満

「今日急に誘っちゃってごめんねー。用事なかった?」
なっちゃんがバスが動き出してから私に手を合わせて謝ってきて、私は慌てて首を振った。
「ぜんぜん!むしろ誘ってくれて嬉しかったよ!」
「そういってくれてよかったー!」
嬉しそうに笑ったなっちゃんは、ちらりと秋山を見て、内緒話のように手を丸めて私の耳に寄る。
「秋山って実咲ちゃんといい感じなの?」
「え!?」
なっちゃんの質問に、私は思わず大きな声をあげてしまい、慌てて口を塞ぐ。
秋山も何をしてるんだかみたいな冷めた目をしてきて、ごまかし笑いをする。
なっちゃんはきょとんとして首を傾げた。
「あれ、違うの? 今日だって秋山が実咲ちゃん誘おって言ったのに」
「え? なっちゃんがいってくれたんじゃないの?」
私の言葉になっちゃんは目を瞬かせて、ははあと口角をあげた。
「自分が言うの恥ずかしくて嘘ついたな。たしかに実咲ちゃんが来てくれたら嬉しいって言ったけど、実咲ちゃん誘おっていったのは秋山だよ」
「そうなんだ…」
前の席にいる秋山の頭を思わずみてしまう。

秋山、そんなこと一言も言ってなかった。

「だからもしかして実咲ちゃんといい感じなのかと思って」
「そんなわけないよ、絶対」
私は秋山のために全力で否定したが、なっちゃんはそっかと笑うだけだった。
それ以上なにかいうのも変な気がして、私はどうしたら誤解がとけるかをめちゃくちゃ考えたがなにも浮かばなかった。
「もしかしてクラスでなんかあった?」
さらりと聞かれた質問に、どきりと心臓が嫌な音を立てる。
なっちゃんは私の表情の変化に何かを察したのかもしれないけど、いつもの笑みを浮かべた。
「なんとなくね! もしなんかあったらいつでも私のクラスに遊びに来てね」
「う、うん」
「てかなんもなくてもきなよ! 実咲ちゃんと話せなくて寂しいんだからー!」
さりげなくぎゅーっと腕を抱きしめる仕草は冬海さんたちとは全然違ってて私は泣きそうだった。
「ありがとう…」
それだけ絞り出して、私は必死に涙がこぼれないよう耐える。

なっちゃんにクラスで一人だなんてバレたくなかった。
きっと心配させる。そしたら気をつかって毎日きてくれるかも。
それで、もしなっちゃんが冬海さんたちに目をつけられたらって思うと怖かった。
< 13 / 27 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop