友達未満
「あ、」
スマホを触っていた私は何気なくニュースを見ていた手を止めた。
「ん?」
秋山が横から見てくるので、スマホの画面を見せる。
「これ、クリスマスから公開なんだって思って」
それは、最近私たちの間で流行っている少女漫画が原作の実写映画で、とにかくヒーロー役の男の子がかっこよくてキュンキュンするのだ。
「なにそれ」
もちろん男子の間で流行っているわけではないので秋山が知らないのも無理はない。
「少女漫画原作の恋愛映画」
「全く興味ないわ」
内容を簡単に聞いてあっさりと興味をなくした秋山は、手元のスマホに目線を戻す。
「なっちゃんは好きなはずだよ。去年、漫画貸したし」
漫画を貸したあとどこでキュンキュンしたのかを話し合ったこともある。
「……誘ってみれば? 公開日ちょうどクリスマスだし」
「あのさ」
私の言葉にため息をついた秋山は私を半目でじっとみた。
「うん」
「変な気、遣わなくていいから。さっきもそうだけど」
慣れないわりにパスをした時の秋山の顔はすごかった。
「パスが下手でごめん」
「そういうことじゃなくて。春川も言ったろ? キューピットはできないって。いらないから」
秋山は余計なお世話といわんばかりに冷たい口調でそういって、私は縮こまる。
「ごめん」
視線を落としてぐっと拳を握る。
率先してどうこうはするつもりはなかったけれど、できるときはパスした方がいいかと思ったけど。
それは秋山にとってはいらないことだったんだな。
「気遣いは嬉しいけどね。気持ちだけ受け取っとく」
私の落ち込みにばつが悪くなったのか、秋山はさりげなくフォローをいれて、「今日、楽しかったわ」と話題を変えた。
「うん、私も」
「俺、春川のあんな楽しそうな顔初めて見た」
「そ、そう?」
「うん。教室では絶対見ない顔。あとおどおどしてないし」
「そんなことないよ」
曖昧に笑うと、秋山は私を指さす。
「ほら、その顔。そのごまかし笑い、よくしてる」
ずきんと心臓が痛くなって、唇を引き結ぶ。
「俺が原因かもしれないけど、冬海たちと離れたら? 春川と気なんて合わないだろ」
「簡単に言わないでよ」
離れたら?なんて簡単に言うけど。
離れたら、また元に戻るかも。一人になって、無視されるかも。
あの時の気持ちに戻る勇気なんて、私にはなかった。