友達未満
教室に戻ると、冬海さんたちが私の席に座って秋山とおしゃべりをしていた。
さっきまでの嬉しい気持ちがしぼんで憂鬱な気持ちが浮上する。
でも自分の席に行くという選択肢以外がない私は、重い足取りでそこへ向かった。
「あ、実咲おかえりー」
「おかえり」
「た、ただいま」
冬海さんは私を一瞥してそういったあと、席からどくわけでもなくまた秋山へ視線を戻した。
私もなにもいえずにただそばにたつことしかできない。
「春川戻ってきたんだし席どけば?」
みかねた秋山がそう言ってくれたけど、冬海さんは一瞬真顔になったあと、私に口角だけあげた笑みを向けた。
「実咲はいいよねー? 立ってる方がダイエットになるっていってたし」
「そうそう」
冬海さんに穂高さんも同意する。
「え、そんなこと……」
言った覚えがないと続けようとしたが、冬海さんと穂高さんの目が鋭くなったような気がして口ごもる。
「あ、い、いったかも」
そして思わずごまかすようにうそをついてしまう。
その言葉に二人の目は柔らかくなって、満面の笑みが浮かぶ。
「ほらねー。実咲、ちょっと痩せたいんだって。協力してあげてるんだよーうちら」
「あっそ」
突き放したような言い方は、何も言わない私への軽蔑にも聞こえてただ縮こまった。
「実咲、細いし可愛いのにね」
明らかにバカにしたものが含まれているその言い方は、さらにいたたまれない気持ちにさせた。
「冬海さんのほうが、可愛いよ」
その言葉を待ってたかのように冬海さんは満足気な顔をして、やっだーと私を軽くたたく。
「ありがとう。あと、冬海さんじゃなくて、早苗でしょ?」
「う、うん。早苗ちゃん」
自分でもひくひくとひきつっているのを感じながら私は冬海さんの名前を呼んだ。
授業開始のチャイムがその時鳴って、ようやく自席に戻っていく冬海さんたちに少し安堵した。
席に座ると、冬海さんがつけている香水の匂いがツンと鼻を刺激する。
「ダイエットなんてしてんの?」
前を向いたままの秋山にそう聞かれて、首を振る。
「春川って馬鹿だね」
吐き捨てたその言葉に、私はまたザックリ傷つけられて。
なにもいえず、前を向くしかなかった。