14年目のクリスマス
「パパ、すごい雪よ!
私、こんなに積もった雪見るの初めて!」
滅多に雪の降らない東京で育ったサキには雪が珍しくてたまらないのだろう。
積もった雪に足を踏み入れたり、手で雪をすくったりして、はしゃいでいる。
白いニットのワンピースを着ているサキは、
小柄な体型もあってか、小型犬。
そう。
チワワが尻尾をふって、雪と戯れているようだ。
「あんまりはしゃぐと転ぶよ」
あまりのサキのはしゃぎ振りに、少し笑みが漏れる。
─…初めて君をここに連れてきたときも、サキと同じ反応をしていたね。
赤いコートを翻し、鼻を真っ赤にさせて、はしゃぎ回っていた姿が頭に蘇る…─
「さあ、もう寒いから家の中に入ろう」
ポケットから鍵を取り出し、玄関のドアを開けた。
14年間、使われることがなかった鍵だ。
玄関を抜けるとアーチを描いた螺旋状の階段。
その横には30畳ほどのリビング。
管理会社に頼んで、定期的に掃除をしてもらっていたお蔭で、ホコリ臭さは感じられなかった。
「広い家!すごいー!」
はしゃぐサキの声と、螺旋階段を駆けあがる足音が聞こえてくる。
どうやら家の中を探検しに行ったようだ。
家の中とはいえ、外の冷気が家の中にも充満している。
とりあえず火をおこされければ。
リビングの真ん中に置かれた、大きな円柱のストーブ。
随分古いものだが、ちゃんと火がつくだろうか…。
マッチをとりだし、ストーブに火を近づけると大きな音を立てた後、ストーブに炎が立ち上がった。
微かな温かさを感じ、ホッと息をつく。
よかった…。
まだ使えるみたいだ…。
コートを脱ぎ、黒い皮のソファーに座った。
長時間、車の運転をしてきた疲労が、じんわりと身体中にのしかかる。
雪道の運転は、余計に神経を使うものだ。
それも、坂の多い山道。
スリップを気にしながらの運転は、思っていたよりずっと、神経を磨り減らしていたようだ。